クリスマスのウィーン、幸福の灯りに照らされて

ヨーロッパ

ウィーンで過ごしたクリスマスは、光と音、そして温かい人々に包まれた忘れられない旅だった。美術館で名画を眺め、音楽に耳を傾け、粋な声かけに微笑むひととき。そんな静かな喜びが、6年経った今も胸に残っている。その記憶を辿りながら、ウィーンという街が教えてくれた特別な冬の時間を振り返りたいと思う。

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祖母の記憶とウィーンの旅への誘い

6年前、友人とクリスマスにウィーンを訪れた。

クリスマスのヨーロッパには一度行ってみたかった。いつも旅先はなんとなく思いついたところに行く。

私の祖母はキリシタンで讃美歌をよく歌っていた。

そんな祖母は仲間と昔ウィーンを旅し、ウィーン楽友協会で歌ったそうだ。

祖母の家にはその頃の写真が3枚ほど壁に飾ってあった。

そんなことを思い出し旅先の候補にウィーンを挙げた。

ウィーンは、澄み切った冷たい空気に包まれていた。

道を行き交う人々の笑い声と、クリスマスマーケットから漂う甘いワインの香り。

街はクリスマスの幸福に包まれて人々も少し浮かれ気分だ。

祖母が訪れた景色をこの目で見ているということが、遠い昔の秘密をそっと分けてもらったような気がして、嬉しかった。

ベルヴェデーレ宮殿美術館

ウィーンに着いて、まずベルヴェデーレ宮殿美術館を訪れた。

グスタフ・クリムトの「接吻」、エゴン・シーレの「死と乙女」──素晴らしい作品たちが多く収容されている。

シーレの作品はどこか鋭く胸に刺さり、クリムトの金箔の輝きには思わず時が止まる。

ベルヴェデーレ宮殿美術館の隣りではクリスマスマーケットが開かれていた。

私はガラス製のベルと天使のオーナメントを買った。毎年クリスマスの時期になると壁に飾っている。

カールスプラッツ

学生の頃、近代美術史の授業で学んだオットー・ヴァーグナーの建築。

その1つ、ウィーン分離派を象徴する黄金のドームが輝くカールスプラッツ駅舎を訪れた。

どこか未来的でありながらも古典的な優雅さを併せ持つその姿に、当時のウィーンが抱いていた「新しい美」を感じる。

カールス教会

ちょうどその日は教会内でコンサートが開かれていて、思いがけずオペラを聴くことができた。

教会の中で聴く音楽は、どこか日常では味わえない特別な余韻を残す。

長旅の疲れも忘れ、ウィーンの空気の中にじんわりと溶け込んでいく。

音楽そのものが街に息づいているように感じた。

ウィーンの市庁舎

市庁舎は夜空に向かって、まるで時間から切り離されたような静けさをまとい立っている。

その足元に広がるクリスマスマーケットは、まばゆい光と人々の声で満ちていた。

少し甘めのホットワインを片手に、マーケットの屋台を一つずつ巡る。

温かいコップを持つ指先がほっとして、香りの立つワインが寒さの中でゆっくり体を温めてくれる。

広場の一角にはスケートリンクがあり、家族連れやカップルが楽しそうに滑っていた。

ふわふわと漂う笑い声に誘われて、少し心が揺れる。

けれど、ホットワインの酔いで体が少しふらつき、今夜は見るだけにしておこうと思った。

美術史博物館

美術史美術館に到着してまず戸惑ったのは、チケットの購入場所が見つからなかったことだった。

大きな建物の外をぐるりと回りながら、入り口らしき場所を探していると、偶然、日本人らしい二人組の男性観光客と目が合った。

「チケットってどこで買うんでしょう?」と思い切って声をかけてみた。

彼らはもう購入した後で親切に教えてくれた。

日本から遠く離れたウィーンで、日本語が通じる安心感にホッとする。

普段ならほとんど気にしないことが、海外だと不思議と心に残る。

美術館の中に足を踏み入れると、静かな威厳が漂っていた。

美術史美術館の中にあるカフェに立ち寄った。カフェラテを注文して、しばらく周りを眺める。

天井まで届く大きなアーチと、幾何学模様の床。

なんて美しい空間なのだろう…!

カフェラテはほのかにビターな香りと、ミルクの舌触りがちょうどよく、私好みの味だ。

席はほぼ埋まっていたけれど、慌ただしさを感じない。

あちこちで談笑する声や、遠くから聞こえる食器の音が、まるでこの場所のために用意されたBGMのように聞こえる。

静かに心に灯る、ウィーンの記憶

旅先での風景や出来事は、思いがけない形で心に残るものだ。

ウィーンの街を歩きながら、クラクションを鳴らして

「メリークリスマス!」と声をかけてくれた中年の男性。

ちょっと驚きながらも、なんて粋な人なんだろう、と笑ってしまった。

きっと、ああいうのがウィーンらしい軽やかさなのだろう。

それがクリスマスの灯りや美しい音楽と相まって、この街全体を「思い出の箱」に変えてくれる。

いつか、自分が年を重ねたとき、このウィーンのクリスマスの記憶を子供や孫に話すのだろうか。

そんな想像をすると、心の奥に小さな幸福が灯るのを感じる。



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